自転車で山、海へ行く

山、海、街、自転車、船、本のこと

燕岳ビバーク訓練(後半)(2020/07/25)

テント設営後、横になってたらいつの間にか寝ていました。慣れない夜行バスであまり寝付けなかったからでしょう。時計を見るとまだ16:00。今一度シェルター内の状況を確認しておきます。床は水がかなり染み込んできてて隅の方では小さい水溜りが出来ています。想定していたものの、現実にこうなってしまうと不快でなりません。ダブルウォールのテントが如何に快適だったか分かります。そして厄介なのがベンチレーションの風穴。ここからも当然と言えば当然なのですが、雨風が侵入してきて落ち着かない。これらの現象はどうしようもないことなので諦めて、持ってきた文庫本を読むことにしました。

サン=テグジュペリの『夜間飛行』。著者は『星の王子様』で知られていますが、実は元パイロットであり、時の大戦で地中海上空を偵察していた際に行方不明になりました。軍人として出撃する以前は郵便飛行のパイロットであり、『星の王子様』や『夜間飛行』もその時代に書かれた作品です。今作では著者の飛行経験が活かされたリアルかつ幻想的な飛行風景と、パイロット及び郵便飛行会社に携わる人々の葛藤が描かれています。

本を読みふける内にあたりは日が沈み始め暗くなってきました。お腹が空いたものの、この狭い密閉空間でガスを使うことは出来ないので、補給食として持ってきたカロリーメイトを食べて空腹を凌ぎます。シェルター内の浸水具合はますます酷くなり、もはや濡れていない場所はありませんでした。一刻も早く下山したいですが夜を越さないことには意味がありません。暗くなって本も読めないので時間をつぶす手段がなくなり、一向に進まない時計の針にストレスを感じました。30分おきに寝て起きてを繰り返し、どうにか時間が経つのを待ちます。

23:00ごろ、風の強さがピークを迎えます。自分がシェルターの中に入っていなかったら飛ばされるなと確信できるほどです。とてもじゃないですが、うかうか寝ていられません。もうザックを濡らすまいと言う気持ちは沸かずただただ時が経つのを待っていました。『夜間飛行』で闇夜の暴風雨の中、必死に飛行機を操縦をしていた主人公ファビアンと自分の状況が重なります。ファビアンはその後、暴風や雷雨によって通信が途絶え消息を絶ちました。流石にファビアンのように命の危険は感じないにしても、かなり精神的に参っていました。

0:00から2時間ほどだけ、うつらうつら眠れました。起きたら2時間も経っていることに喜びを感じる謎の感情。微かに届く電波を頼りにスマホで雨雲レーダーを見てみると3:30ごろから少しだけ雨雲が抜けるようです。この時間帯に懸けて下山することにしました。

3:00にシェルターの撤収にかかります。雨と砂利でぐしゃぐしゃのドロドロになったシェルターとグラウンドシートを畳んでいきます。シェルターの生地は透湿性があまり無いため、なかなか空気が抜けず元のコンパクトな状態に戻りません。仕方がないのでビニール袋に突っ込みます。3時半に撤収完了。出発前にトイレに行こうとドアを開けると中に人がいてめちゃめちゃ驚きました。男性1人ともう1人の女性はうずくまっていました。恐らくテント泊したものの雨風にやられてトイレに避難してきた様子。燕岳はアルプスデビューにうってつけの山ですが、あくまでもアルプス。天候が悪化すれば山は途端に牙を剥きます。って偉そうなことを言っておきながら、私もこのとき初めてそれを実感しました。とにかくお二人が無事に下山できることを祈って出発します。

4:00に燕山荘を出発。

暗闇の稜線はまさにあの世との境界だなと思います。それは危険だからという意味合いではなく、もっと心の奥底から感じるもの。光も音もないただの空間。そこにあるのは自分がここに居るという意識だけ。死を感じることで初めて生きていることも実感出来るのです。夜間飛行のパイロット達も常に死を意識しながら闇夜の空へ飛び立ったのでしょう。

稜線から外れると今までの風はなんだったんだというくらい収まります。相変わらず雨は降っているものの風がないだけ寒さは感じなくなりました。樹林帯の中に入れば葉っぱが傘がわりになり雨も幾分かマシになります。

徐々に空が明るくなってきました。太陽の有り難さをしみじみと感じます。

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5:30 中房温泉到着

全く予定通りには行かなかったものの、とても貴重な経験が出来ました。正直言うともう同じ体験をしたくないなと思いますが、目標を実現するためにはそうも言ってられません。これくらいのことは当たり前のようにこなせるまで場数を踏んでいかなければなりません。

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