茄子がままに

週末の山遊び、街遊び、自転車遊びのこと。ホームマウンテンは六甲山です。

伊吹山ナイトハイク(2020/09/13)

私が山にのめり込んだその背景には、幼いころ父に連れられて、六甲山を始め関西圏の山々を登った体験が影響しているのかもしれない。約10年ぶりに父と登山をしてふとそう思った。

父との登山はあまりいい思い出がない。芦屋ロックガーデンの地獄谷の崖を登っている最中、手に棘が刺さってパニックになったことや、吸い込まれそうな濃霧のなか蒜山の鎖場を登らされたことなど、なぜか酷い目にあった記憶ばかりが残っている。いい思い出といえば休憩中に食べたグミが美味しかったとかその程度で、もし父が聞いたら悲しむかもしれない。しかし今なら、父が家族を山に連れて行った理由が少し分かるような気がする。

自然の中に身を置き、苦しみながら山の頂を目指す“登山”という行為から学べることは山ほどある。特に家庭と学校が世界の全てとも言える小学生だったら尚更である。そんなことを父が考えていたかは知らないが、少なくとも達成感を味わってもらいたかったのだと思う。それが分かったのは自主的に山に行くようになった17歳の頃であり、当時の私としては山より団子であった。

父から伊吹山のナイトハイクに誘われたタイミングで、私も伊吹山に登る計画を立てていたので、それなら丁度良いと承諾。正直に言うと山は一人で登りたかったが、たまには親孝行もしとかないとあかんなと社会人になってから思い始めていたので一緒に登ることにした。父は車で伊吹山の麓まで行くそうだが、私は自転車で行くことにした。自転車で山の麓へ行き登山するスタイルが気に入っている。全ての行程を自力でこなすため達成感も段違いに大きい。

9/13(土) 4時に堺の社寮を出発。今回はマドンにトピークのバックローダー15Lを装備。ザックはトレラン用のサロモンAgile12にした。f:id:massto0421:20201116190153j:image

京都までの道のりは前回の京都マラニックと同じコースを辿るだけでいいので、迷うことなくスムーズに走れた。早起きは三文の徳と言うが、早起きの徳は早起きでしか得られないよなぁと、淀川サイクリングロードからご来光を拝んでしみじみ思った。f:id:massto0421:20201116190227j:image

7:30に出町柳駅に到着。駅の近くにある有料駐輪場にマドンを駐めてトレランの装備に変更。3月にリタイアした京都一周トレイルの続きを走りたかったので、この機会に寄り道しようという魂胆である。f:id:massto0421:20201222223402j:image

叡山電車に乗って二ノ瀬駅へ向かう。が…先日の台風の影響で線路に土砂が流入しているらしく、一駅手前の市原駅で下車。二ノ瀬駅までは2kmほどしかないので問題なく市原駅からスタートした。f:id:massto0421:20201116190130j:image

二ノ瀬駅からトレイルへと入る。6月に周辺の山で熊が出没したらしく、注意喚起の張り紙がされていた。こんな人里近くにも熊が出るのね…f:id:massto0421:20201116190052j:image

京都一周トレイルのコースは一昨年の台風の影響をもろに受けていて、未だに倒木だらけの道も多い。地元の方々がコース整備に取り組まれているそうだが、元通りになるにはもう少し時間がかかりそうだ。f:id:massto0421:20201116190033j:imagef:id:massto0421:20201222221925j:image

夜泣峠に着いた。前回は日が落ちて真っ暗な中、この峠を登っていたが通行止めによりリタイアした。まさに字の如く夜泣峠である。f:id:massto0421:20201116190022j:image

まだまだ残暑が厳しく汗が止まらない。夏の低山はそれはそれは辛いもので、このような樹林帯が多い場所だと風が通らないため汗がまったく蒸発しない。汗が蒸発しないということは、肌の表面に汗がとどまり続けるので、発汗できず熱が体内に篭ってしまう。まさしくその状態に陥りスピードがなかなか出ない。おまけに景色も単調で気分が上がらず、結局30km近く走る予定だったが12km地点で街中へエスケープした。f:id:massto0421:20201103211157j:image

今出川なか卯で腹ごしらえをした。なか卯は数ある牛丼チェーン店の中で最も推しの牛丼店である。その一番の理由はカウンターに座って出されるお茶にある。なか卯のお茶は恐らく粉末を溶かすタイプの緑茶なのだが、不思議となか卯のお茶はとても美味しく感じる。そしてまた牛丼との相性が抜群で、少し濃ゆい味付けの牛丼を食べた後に、キンキンに冷えたお茶を飲むのが最高なのである。

至極どうでもよい“なか卯談義”へと脱線してしまったが話は戻る。出町柳まで歩いたら、再びマドンにまたがり伊吹山のある彦根市を目指す。少しでも楽をしたいので坂道の少ない京阪電車沿いの道を走って琵琶湖へ抜けることにした。

上栄町駅」と「びわ湖浜大津駅」間で京阪電車が街中を悠々と突っ切っていく光景は圧巻で、何より京阪電車と並走して坂道を下るのが楽しすぎた。f:id:massto0421:20201222224048j:image

自転車で滋賀県に来るのは初めてである。琵琶湖を間近で見るのも初めてかもしれない。眼前に広がる琵琶湖はやはり大きくて、滋賀県民が心の拠り所にする所以もわかるような気がした。コロンブスが琵琶湖を見たら恐らく「ここが黄海だ!」と自慢げに声明していただろう。しかし私は眼前の琵琶湖よりも、対岸にそびえる比叡山の稜線に目を奪われていた。

これより君は行く雲と
ともに都を立ちいでて
懷へば琵琶の湖の
岸の光にまよふとき
東胆吹の山高く
西には比叡比良の峯
日は行き通ふ山々の
深きながめをふしあふぎ
いかにすぐれし想ひをか
沈める波に湛ふらむ

深田久弥の『日本百名山』では伊吹山に登った著者が、島崎藤村『晩春の別離』という詩を紹介している。まさにその詩にぴたりと重なる風景である。f:id:massto0421:20201222224204j:imagef:id:massto0421:20201224120230j:image

追い風も味方し、近江大橋から彦根までの平坦部は気持ちよく巡行できた。あっという間に彦根に入り、父と待ち合わせをしていた「極楽湯 彦根店」に予定よりも1時間早く到着した。f:id:massto0421:20201224214325j:imagef:id:massto0421:20201222224123j:image

しばらく温泉に浸かったり晩ごはんを食べて休憩。仮眠もしたかったが、週末ということもあり家族連れが多く騒がしかったため出来なかった。f:id:massto0421:20201222224109j:image

23時ごろに父の車にマドンを詰め込んで伊吹山登山口へ出発。極楽湯から30分ほどで到着した。気温は15℃で寒くも暑くもない丁度良い気温だが、登り始めると暑くなることは分かっていたので半袖半ズボンに着替える。ナイトハイクが人気な山だけに、自分達以外にもちらほら登山やトレランのグループがいたので少し安心した。

12:10に伊吹山登山口を出発。序盤は森の中を登っていくがすぐに視界が開ける。スキー場としても有名な山なので、その山容もいかにもといった感じですすき野が広がっていた。と言ってもヘッドライトの明かりでしか見られないので合ってるかは怪しい。視界が開けた登山は私的には好みなので、いい気分で登れた。まだ1合目を過ぎた地点であるにも関わらず、下界の方を見るとチカチカと街の灯りが煌めいており、頂上からの美しい夜景を期待させた。f:id:massto0421:20201222224104j:image

しかし前を行く父の様子がどうもおかしい。ペースがかなり落ちて息も荒く辛そうだった。聞くと右足のふくらはぎが痛むらしい。まだまだ序盤なので歩いているうちにマシになるかもしれないということで様子をみていたが、2合目に差し掛かっても痛みは増すばかりである。このままでは、たとえ山頂に着いたとしても安全に下れるかは微妙なので下山することにした。小さいころは父のペースに付いていくことが大変だっただけに、あれから随分と時間が経ったことを感じてしまい少し寂しい気もした。と同時にやはり私が登山に夢中になったその根底には、小さい頃の父との登山が深層心理のように影響しているのだと思った。f:id:massto0421:20201222224053j:image

私はまだまだ体力を持て余しており、ここまで来て山頂を踏めないのは嫌なので、父の下山に同行してから今度は一人で山頂を目指した。2時ごろに再出発。遅くても4時間あれば往復はできると見積もれるので、父には申し訳ないが車の中で待っててもらった。5合目あたりから霧が出始め、登るにつれて段々と濃くなっていった。時折、霧の中に小さな発光体が動いて不思議に思っていたが、それはシカの眼光だった。相変わらずシカの甲高い鳴き声には慣れず、登山道の脇でシカが鳴くたびにビクッと驚いた。f:id:massto0421:20201222224128j:image

8合目からは濃霧に加え雨が降り始めた。視界はほぼゼロでヘッドライトを照らしても5mも見えない。さらに登山道は険しくなり、アルプスのようながれ場が目立ち始めた。ルートファインディングが難しく、何度か立ち止まっては辺りを見渡し正しいルートを見つけることを繰り返した。そうこうしているうちに、登山口から約2時間で伊吹山に登頂。山頂からの景色は皆無で360度見渡す限り霧であった。景色の見えない山頂ほど面白くないものはない。風は激しく、気温も10℃近くまで下がっていたので寒さを感じ、早々に下山することにした。f:id:massto0421:20201222224140j:image

雨はかなり本降りになっていた。ザックから折り畳み傘を出して足速に下っていく。登山に傘ってどうなん?と気になるかもしれないが、私は割と気に入っている。そもそもレインウェアがあまり好きでないので結果的に傘を持ち歩くようになった。冬場はまだしも、行動すると汗ばむような気温でレインウェアを着るのは不快なので、よっぽどでない限り着用しない。その代わりの傘である。服装は気温に合わせたまま行動できるのが良い。下山した後も使えるしね。雨の日の通勤ランでも傘を持って走っている。f:id:massto0421:20201222224151j:image

3合目まで下ってようやく霧から脱出できた。ここから見える夜景も充分に綺麗なのだが、やはり晴れた日に山頂から見たかったな。f:id:massto0421:20201222224058j:image

再出発してから3時間半で下山した。次は冬、雪に覆われた伊吹山にトライしてみたい。父とのナイトハイクもまたリベンジしないとね。f:id:massto0421:20201222224119j:imagef:id:massto0421:20201224214236j:image