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中央アルプス縦走②(2020/09/20,21)

6:30 コガラ登山口出発

まず目指す木曽駒ヶ岳は、伊那や駒ヶ根側から登るのが一般的だが、TJARでは木曽側の福島Bコースを登る。山頂までの標高差は約1600m、距離は7.5kmほどなので、なかなかの急登と言える。

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序盤はなだらかな林道を進むため、足ならしに丁度良い。前方をテンらしき小型動物が横切っていった。30分ほど歩いて佐幸川を渡れば、いよいよ本格的な登りが始まる。

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中央アルプスと言えど、その麓は関西の低山と大して変わらず、ひたすら樹林帯の中を黙々と登っていく。六甲山で例えるなら延々と雨ヶ峠の登りが続くような感じである。この鬱蒼とした辺りの様子からしてクラシックルートと呼ばれるのも頷ける。
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4.5合には水場があるのだが、他の方も書かれてるように水量は少ないため余り当てにしない方が賢明だろう。この日もチョロチョロと申し訳程度にしか水は出ていなかった。
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途中小雨が降り出したが30分もしないうちに止んだ。しかし高度が上がるにつれて少し風が吹き始め、アルプスの山中に居ることを再認識した。
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ようやく退屈な樹林帯を抜けると7合目の避難小屋が見え、また後ろを振り向けば御嶽山を含む周りの山々が望めた。ここまで全く人と会わなかったが、避難小屋には管理人と見られる方が小屋のメンテナンスをしており挨拶を交わした。ひっそりとした山中では人と会うだけでもかなり安心感が得られる。
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巨石がごろごろと転がっておりその上をジャンプしながら進んでいく。徐々に登山道の様相はアルプスのそれに変わっていった。
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福島Bコース最大の難所は8合目から稜線に出るための、がれ場登りである。今まで経験した山で最も急な斜面だった気がする。改めて写真で見ても角度がえげつない…。

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耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶことで、なんとか玉乃窪山荘に到着した。あとは緩やかな稜線を登れば山頂に着く。
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10:20 木曽駒ヶ岳に登頂。標準タイム(CT)が6時間50分のところ、3時間50分で登れたのでCT0.6を切ったことになる。予定ではCT0.7で11時に着くつもりだったので少しハイペース気味であるが、この先の岩稜帯で手こずることを考えれば貯金があるに越したことはない。玉乃窪山荘直下のがれ場にやられて若干足が重たいものの、まだまだ余裕はあるので体力面での心配は無さそうだった。
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ところで木曽駒ヶ岳の正式名称は“駒ヶ岳”である。南アルプスにも同名の“駒ヶ岳”があり区別するため、中央アルプスの方を木曽駒ヶ岳南アルプスの方を甲斐駒ヶ岳と呼ぶようになったそうだ。

さて肝心の景色だが、ガスってはいないが雲が多くてあまりパッとしない。山頂の周りは平原となっているので高度感が感じられず、3000m近い標高であることが嘘のように思われた。晴れていればまた違った見え方なのだろうが、深田久弥日本百名山とした理由は、頂上に立っても帰ってから本著を読んでも分からなかった。印象に残ったのは、これから向かう宝剣岳の、まさに剣のように鋭く尖った稜線である。「かっこいい…けど今からあそこ行くんか…」私は岩場に苦手意識を持っているので、どうしても先行きに不安が募ってしまう。
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剣岳の手前、木曽側の方に目をやると、左右対称に切れ落ちた谷底に川が流れているのが見えた。この川はやがて木曽川の本流へと合流し、紆余曲折を経て太平洋へと流れこむ。
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そして岩場登りは始まった。しっかりと鎖が設置されており、足場もしっかり確保できそうで少しほっとした。しかしこれまでの登山道に比べて格段に危険なのは変わらないので、ヘルメットを被り気を引き締める。岩場で危険なのは滑落ももちろんそうだが、それよりも何よりも上からの落石だと思う。落石が起こったら最後、自分に落下してこないように祈るしかない。自分の命を自らコントロール出来ないという点では、ある意味既に死んでいるようなものだ。つまり自分の命は上をいく他人が握っており、また下にいる他人の命は自分が握っているので、落石を起こさないように細心の注意を払わなければならない。
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岩場が始まってすぐの直登を上り切ると、次にトラバース区間が現れる。足場はしっかりしているものの右側の崖は切れ落ちおり中々の高度感である。前方を行く同年代ぐらいの女性はジャージ姿にアディダスのスニーカーという格好であったが、まったく臆することなくスイスイと前を行っていた。トラバースを通過し、さらに岩場を登っていく。
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11:15 宝剣岳に登頂。山頂と言っても小さら祠があるだけで、本当にここが山頂なのか疑わしかったが周りを見てもそれらしき標識は無かった。山頂直下には絵のように美しい千畳敷カールが扇状に広がっていた。“カール”とは氷河によって削られたお椀型の地形のことを指す。気の遠くなるような年月をかけて形成された自然の成す芸術である。
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山頂からの景色を満喫し下山開始。登るよりも下る方が断然、恐怖感が増す。鎖場が数ヵ所あり、3点確保を意識しながら慎重に下る。登り同様、足場は基本的にしっかりしてるので焦らず下れば問題はなかった。今回は昼間で雨や風も無かったが、夜間であったり風雨がある状況だと難易度もかなり変わってくるだろう。また冬山では宝剣岳の滑落事故が絶えず、TJARの完走者でさえも一名滑落し亡くなっている危険区間である。
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岩場を下り、ようやく安心して歩けるようになった。やや下り基調のフラットな道のため小走りで駆けた。こういう道がTJAR気分を味わえて一番楽しい。晴れていればもっと気持ちよく走れるのだが天気はあいにくの模様であった。

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13:45 檜尾岳に到着。宝剣岳からの下りでやや時間を食ったものの、その後の平坦区間で巻き返すことができた。
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今日の宿泊予定は檜尾岳から少し下ったところにある檜尾避難小屋。中央アルプスにはテント場が駒ヶ岳頂上山荘しかないため、木曽駒から駒ヶ根へ縦走するとなると、山荘か避難小屋に泊まるしかない。さらに縦走コースの丁度中間に当たる檜尾岳周辺には山小屋もないため、必然的に避難小屋に泊まるしかない。

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しかし中に入って唖然、もうすでに人で満員になっていた。見積もりが甘かった、というより満員になるという想定をしていなかった。不覚である。そのため避難小屋周辺の整地には、避難小屋を当てにしていたものの、あぶれてしまった登山者のテントが数幕張られていた。整地されていると言えどテント場として公認はされていないが、今回のように避難小屋が一杯になった時のためにテントが張れるようにしているようだった。グレーゾーンではあるが戻ることも先へ行くことも、体力と時間の面で不可能であるため、ここで幕営させてもらうことにした。こんなことを言うのは不謹慎であるが正面に空木岳を望めるこのロケーションは最高だった。

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シェルターを設営し昼食のラーメンを啜っていると、次第にガスが晴れていき青空が見えるようになった。そしてこの景色である。避難小屋からは駒ヶ根の市街地や、これから登る空木岳、ここまで歩いてきた中央アルプスの稜線などが一望できた。山頂では電波が届くものの、極力スマホのバッテリー消費は抑えたいので機内モードにしておく。他にやることもないのでずっと山頂からの景色を眺めていた。ちっぽけになった人間の生活圏を俯瞰すると、仕事や将来のことで悩んでいたことが全て馬鹿らしくなってくる。山に入ると自分が大自然の一部となり、細やかな心情などがぼやけてくる。それは人々が自然に期待する“癒し”の本質でもあり、結局のところ現実逃避に過ぎないのではないかと、いま振り返って思う。次第に日が沈み始め、山も街も真っ赤な空で覆われていった。
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