茄子がままに

週末の山遊び、街遊び、自転車遊びのこと。ホームマウンテンは六甲山です。

駒ヶ根散策(2020/09/22)

中央アルプスから駒ヶ根に下山してまず向かった場所は「早太郎温泉 こまくさの湯」。“ソロキャン”が今年の流行語候補になるなど、キャンプブームの火付け役となったアニメ「ゆるキャン△」の主人公“志摩りん”が訪れた場所として有名だ。かく言う私もここを訪れたいがために中央アルプスに来た節もある。TJARでも立ち寄っている選手がいるそうだ。

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浴場は広くて綺麗だった。大きな窓ガラスから入りこむ陽射しが湯気によって乱反射し、まさに極楽浄土のような空間だった。特に露天風呂からは中央アルプスの山々と太田切川を眺めることができて、何時間でも湯に浸かれそうだった。2日ぶりの風呂ということもあり、危うく昇天しかけた。

お腹も空いてたので風呂からあがって昼食を取ることにした。駒ヶ根といえばソースカツ丼が有名。これはもう外せない。ソースカツ丼のない駒ヶ根なぞ、たこ焼きのない大阪のようなものだ。ソースカツ丼の発祥とされる「明治亭」というお店が、こまくさの湯のすぐ近くにあるのだが、丁度お昼どきの為すでに行列ができており、萎えたのでやめた。実はこまくさの湯には食堂があって、風呂から上がった後すぐに食事できるようになっている。志摩りんも、こまくさの湯でソースカツ丼を食べていたことを思い出し、私も同じようにした。食堂にはテラス席が設けてあり、コロナのこともあるので外で食べることにした。

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舌バカな私は基本的に何でも美味い美味いと思いながら食べるのだが、当然、本場のソースカツ丼が美味くないはずがない。舌バカ故に他のソースカツ丼と、どの辺りが違うのか分からなかったが美味しいことには間違いなかったし、今まで食べたソースカツ丼の中で一番だった。しかしよく考えてみれば、21年間の生涯でソースカツ丼を食べた記憶は片手で数えられるほどであった。
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テラス席からの眺めも露天風呂と同様に素晴らしかった。ソースカツ丼の美味しさも増し増しである。登山して、温泉に入り、美味しいものを食べる。もう一生このサイクルだけで生きていきたいなァと本気で思った。
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こまくさの湯を後にし、周辺をぷらとぷらと歩く。太田切川にかかるこまくさ橋からは南アルプスもよく見えた。特に国内で富士山に次いで標高が高い北岳は、少し離れた駒ヶ根から見ても存在感を強く放っていることがわかった。
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こまくさ橋から少し南に移動して光前寺へと向かう。長野県には善光寺という名の知れた寺院があり間違えそうになるが光前寺である。光前寺には早太郎伝説という言い伝えがあるのをご存知だろうか。

今よりおよそ700年程も昔、光前寺に早太郎というたいへん強い山犬が飼われておりました。

その頃、遠州府中(静岡県磐田市)見付天神社では田畑が荒らされないようにと、毎年祭りの日に白羽の矢の立てられた家の娘を、生け贄として神様に捧げる人身御供という悲しい習わしがありました。……

光前寺のホームページから引用させていただいた。霊犬早太郎の姿を一目見ようと犬好きや、ゆるキャンのファンなどが全国から訪れるそうだ。光前寺通りを進んでいくと林の中にひっそりと洋館が建っていた。「駒ヶ根市郷土館」。“郷土”という文字に目がない私はなんの迷いもなく入館した。館内には中央アルプスに生息する獣や野鳥の剥製、大正時代の登山者のマネキンなどが展示されていて中々面白かった。郷土館となっているこの建物は大正期に建てられた駒ヶ根市役所旧庁舎だそうで、内装やつくりに歴史を感じられる。

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郷土館のとなりに建つ茅葺の民家は旧竹村家住宅といい、なんでもこの辺の上層農家の家だそうな。高専自転車競技部で毎年出場してた「はれのくに岡山エンデューロ」の前泊で利用してた岡山の八塔寺村を思い出す。
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思いもよらない嬉しい寄り道に随分と時間をとられてしまったが、本来の目的であった光前寺に着いた。が、まさかの閉館。郷土館でのんびりしすぎた…。いいもん、また来るもん。
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駒ヶ根高原のキャンプ場で宿泊するつもりだったが、なんだか人里が恋しくなったので、光前寺から駒ヶ根市街地までとぼとぼ歩く。至るところに蕎麦畑が広がっていて美しい。そのはるか後ろには南アルプスの山々。工業製品に“機能美”という言葉があるように、土地の環境によって自然と発展していき洗練された生活様式には、ある種の美しさがあると思った。
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ベルシャインという洒落た外観の商業施設に本屋があったので、文庫本を数冊買った。旅先で本を買うのはいい。その本を読むたびに、旅先での思い出が自然と蘇って懐かしい気持ちになれるから。段々と日が沈み始めた。

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どこかに寝れそうな場所はあるかなぁ、と寝床を探しながら暗くなった町をさまよった。お腹が減ったのと、スマホの充電が無くなりそうだったので、コンセントが使えそうな飲食店をまず探すことにした。Google先生で検索してみると駒ヶ根駅の近くに「焼酎Bar &喫茶Cross Life」というお店があり、ホームページを見てみるとコンセント使用可とのこと!こんな奇跡あるんかいなと思いながら向かう。
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バリバリ登山の格好をした高校生みたいな風貌の私が、こんなお洒落なバーに入るのはどうも躊躇ってしまうが、旅の恥はかき捨てである。バーであるにも関わらずお酒は一切頼まず、お茶漬けと冷奴を注文した。お腹に優しいものを食べたかった。どちらも優しい味付けでほっとした。ゆっくり味わいながら食べて、スマホも無事に充電できたのでお店を後にした。ご主人と色々お話をしたかったが、なんせコミュ障なので勇気が出なかったのが心残りだ。また訪れる機会があれば今度はお酒を飲もう。
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結局、今晩の宿は駒ヶ根駅構内のベンチになった。屋内というだけでも随分と快適である。終電が行くまでは、本屋で買った最果タヒさんの『君の言い訳は最高の芸術』を読んだ。最果タヒさんは神戸出身の詩人である。「夜空はいつでも最高密度の青色だ」が最も有名な作品だろう。ちなみに読んでいるのはタヒさんのエッセイ。この本について書きたいことは山ほどあるが、長くなりそうなのでまたの機会にする。一生ものの最高の芸術を、たった500円ほどで買えるから本はすごいなぁと改めて思った。
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翌日は朝4時ごろに目が覚めた。外に出ると少し寒かったが、それが心地良かった。ずっとベンチに座ってても仕様がないのでふらふらと散歩。昨日本を買ったベルシャインの近くで空が明るくなり始める。先日までいた中央アルプスの山肌がみるみると赤らんできて、私は一番眺めの良さそうな場所まで走り、その移ろいの一部始終を見た。また来てね、と言ってくれているような気がした。
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