茄子がままに

週末の山遊び、街遊び、自転車遊びのこと。ホームマウンテンは六甲山です。

常念山脈縦走②(2021/06/25,26)

今回の装備について。基本的には去年の中央アルプス縦走中央アルプス縦走①(2020/09/20,21) - 自転車で山、海へ行くから変わらないが、細かい部分は変更点がある。レインウェアは雨の日の自転車通勤で使い倒してたので、上だけモンベルのバーサライトジャケットに新調した。続いてクロスオーバードーム用のグラウンドシートを、SOLのエマージェンシーシートに変更。これは軽量化とサイズダウン目的である。シェルター内の敷物も、銀マットからタイベックスのシートに変更した。雨が降ることは明らかだったので、防水性を高めるため念入りに対策を講じた。そして、雪渓が残っている箇所があるので、軽アイゼンも追加。総重量は水抜きで9kgである。f:id:massto0421:20210710133841j:imagef:id:massto0421:20210710133239j:image

9:30 中房温泉出発

水を含めると約11.5kgでなかなか重たい。ここ1ヶ月間、重さになれるために9kgほどの重量を背負って山に入るように心がけていたが、それでも2.5kg増すと全然違ってくる。経験則では8kg以上になると途端に走れなくなるので、もう少し軽量化したかったが、これ以上削ると今の自分の実力では安全に支障をきたすので諦めた。f:id:massto0421:20210714204615j:image

中房温泉から常念山脈の稜線に取り付く合戦尾根は、北アルプス3大急登のひとつであるが、名前負けしている感は否めない。確かに急登であることには違いないのだが、登山道はよく整備されており歩きやすいコースとなっている。この尾根を登るのは3回目、つまり私の北アルプス山行は全てここを起点としてきた為、勝手知ったる道であり、精神的な余裕もこの時点ではまだまだある。しかし一つだけ懸念事項があった。空を見上げると雲の切れ間から太陽が顔を出し、登山道を燦々と明るく照らしている。普通は晴れると嬉しいものだが、あまり天気が良すぎるのも困ったものである。というのも、日光によって気温が上昇すると、午後からの天気の崩れ具合が酷くなる可能性があるからである。特に夏場は何といっても雷が怖い。遮るものが何もない2500m以上の稜線で雷に遭えば、ひとたまりもない事は容易に想像できるだろう。近くに山小屋があればいいのだが、無ければせいぜいハイマツの影に身を潜めておくぐらいしか対応できない。勿論そうならない様に、空の様子を伺いながら、稜線の途中で雷に遭わないよう行動するのが一番の対策であるが。とにかく、これ以上晴れてくれるなよと願いながら尾根を登っていった。

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10:50 合戦小屋

標高2200m付近にある合戦小屋まで来ると、いよいよアルプスに来たという実感が持てる。登山口よりも気温が下がったことをはっきりと実感でき、周りの風景も木々が少なくなり荒涼とした様相に変化する。霧が立ち込めてくるのも大体この辺りで、前述したような雰囲気を助長させる一因となる。f:id:massto0421:20210714204656j:image

疲労感はあまり無かったがお腹が減ってきたので、ザックを降ろし、補給食で持ってきたライトミールを一袋取り出して歩きながら食べる。ライトミールというのはイオンのプライベートブランドとして販売されているカロリーメイトのようなものだ。1本あたり100kcalとカロリーが高く、キリもいいので計算しやすい。1箱4本入り(1袋2本入り)で値段は120円なので、本家よりお財布に優しいのもありがたい。今回は4箱、つまり16本持ってきた。

話は戻るが、合戦小屋から少し先を行くと、登山道のわきに所々雪塊が残っており、この先まだまだ雪渓が残っているのではないかと少し不安になった。それにしても、標高2300m以上にもなると、空気の薄さが徐々に身体的反応として現れ始める。登り始めと同じペースで登ろうとしても息が切れやすくなる為、自然とペースは落ちる。ここで無理に同じペースを維持しようとすると、高山病のリスクも高まるのだろう。そんなことを考えている内に、早くも稜線上の燕山荘が見えてきた。

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11:30 燕山荘

最後の急登を上りきり稜線に出ると、眼前に広がる風景に思わず息を呑んだ。荒々しい岩壁に雪化粧を施した裏銀座の山々の、毅然たる姿がそこにあった。2年前の晩夏、初めてこの地に立った時もその風景に感動したものだが、厳しい冬の面影を残した北アルプスの一面を見られたことに、新鮮な感動を味わえたのである。

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「あぁ、来てよかったなぁ。」と、小さく呟いた。私はひとりの時、自然が織りなす人知の及ばない風景に出会うと、その感動を心に押し留められず、口に漏らしてしまうことが度々ある。心の奥底から湧き出す衝動に駆られ、燕山荘にザックをデポするや否や、燕岳の方へ稜線を駆けた。花崗岩が風化し地面に積もった砂礫の、足裏に伝わる感触が六甲山を思わせる。しかし周りの風景は北アルプスそのものであり、浮き足立つのは心だけでなく、足取りもまた軽やかになる。

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11:45 燕岳(標高2763m)

北アルプスの女王と呼ばれるように、なだらかな稜線上に花崗岩の白い岩肌が目立ち、凛とした女性を連想させるような山容である。心配していた天気だが、雲がほどよく空を覆っており、雷の兆候は見られなかったので安心した。

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感慨に耽るのもそこそこに、すぐ山頂を後にした。燕山荘にデポしていたザックを再び背負い、大天井岳の方へ歩いていく。燕岳から大天井岳への道のりは、少し距離はあるものの、緩やかなアップダウンが続き歩きやすい。何より右手に見える裏銀座の山々や、徐々に近づいてくる槍ヶ岳に目を奪われて疲れも忘れてしまう。その度に私は立ち止まることを強いられ、ついつい写真を撮ってしまうのだった。

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燕岳と大天井岳の中間あたりに位置する蛙岩を過ぎたあたりだったろうか、少し先のハイマツの影で何かが動いた。それは暫くすると登山道にひょっこりと姿を現した。ライチョウである。身に纏った黒色の斑模様をした夏毛、鮮やかな朱色をしたまぶた、雪渓を思わせるような白い腹、それぞれ自然に溶け込んだ体色のコントラストが美しかった。ライチョウは警戒心の強い野鳥だが、長らく天然記念物として保護されていたため、人に対しての警戒心は薄い。このライチョウも、私の姿を確認しても逃げる様子はなく、登山道を案内するように私の数m先をトコトコと歩いていった。

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常に暴風雨と吹雪の危険に晒されている標高2500mの稜線上は、人間が生きていくにはあまりに厳しい環境である。しかしそれはあくまで私たち人間からの視点に過ぎず、ライチョウにとっては、より生存率を高め種を残していく為には、この過酷な山岳地帯で生きていく方が賢明だと判断した訳である。一体どちらの世界がより安全で平和的と言えるのだろうか、逞しく北アルプスで生き抜く野生動物の健気な姿を見ていると、そのような疑問が頭の中を浮遊するのであった。