茄子がままに

週末の山遊び、街遊び、自転車遊びのこと。ホームマウンテンは六甲山です。

辺境・近境(2022/02/27)

運ばれてきたシーフード・ピザには「あなたの召し上がるピザは、当店の958,816枚目のピザです」という小さな紙片がついている。その数字の意味がしばらくのあいだうまく呑み込めない。958,816?僕はそこにいったいどのようなメッセージを読みとるべきなのだろう?そういえばガールフレンドと何度かこの店に来て、同じように冷たいビールを飲み、番号のついた焼きたてのピザを食べた。僕らは将来についていろんなことを話した。そこで口にされたすべての予測は、どれもこれも見事に外れてしまったけれど……。でもそれは大昔の話だ。まだここにちゃんと海があって、山があった頃の話だ。

いまから25年前、震災から2年経った神戸の街を歩いた村上春樹は、その夜、三宮のイタリアン料理店「ピノッキオ」に入店しピザを食べたようだ。先週末、友人と一緒に訪れたお店が、そのような由縁のあるところだと知ったのは、つい昨日のことである。

私たちもピザを食べながら、将来について話をしていた。まだ見ぬ将来について、不安げながらも強い意志を持って語る友人の姿が好きだった。だから他の話題、ことさら友人の所属する大学の、ゼミ生に対しての愚痴などは、ふんふんと適当に聞き流して相槌をとっていた。彼女の口から他人の悪口など聞きたくなかったから。たぶん向こうもそれを察していた。

お互い地元の神戸が好きで、ゆくゆくは神戸のために働きたいと心から願っている。まだここにちゃんと海があって、山がある限り、その願いは叶えられるはずだ。かつて村上春樹の目に映った海と山は、1425,083枚目のピザが焼かれた今でも、神戸の街を照らしつづけているのだから。f:id:massto0421:20220302171054j:image