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拝啓 加藤文太郎 兵庫縦断176kスピードハイク(2022/5/3,4)

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晴れわたる日本海をバックに「拝啓 加藤文太郎 兵庫縦断」と書かれた大きな横断幕が吊るされている。その傍らで砂浜に横たえて少し居眠りをした。待ちに待ったこの日を迎えることに興奮して前日はあまり寝付けなかったのだ。波打つ日本海のさざめきと燦々と降りそそぐ日光を浴びながら、心地よい眠気の片隅でこれからの旅路を想った。

正午12時に浜坂県民サンビーチをスタート。兵庫県神戸市の和田岬をめざす176kmの旅が始まった。距離が距離なのでキロ7分ほどの緩々としたペースで集団は進む。集団から3人ほどが抜け出したが、無理に追うことはせず淡々と自分のペースを刻んでいった。7kmほど走ったあたりのガソリンスタンドでエイドが出されていた。有り難い限りである。スポーツドリンクをいただいた。
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10kmほど走ると湯村温泉街に出てくる。GW真っ只中ということもあり多くの観光客で賑わっていた。近くの一軒家の軒先では私設エイドが出されていて、ホルモンとハイボールをいただく。これがまた非常に美味しくてしばしレース中だということを忘れるが、先を行く3人の動向が気になるので礼を言い先頭を追った。マラソン中の飲酒は東神戸マラソンキャノンボールで慣れたものであり、むしろ俄然調子が出てくるというものだ。

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湯村温泉の先から本格的な峠越えが始まる。まずランナーの前に立ちはだかるのは、湯村カンツリークラブへと向かう但馬アルペンロードだ。そこそこの斜度でだらだらと登坂区間がつづく。道路脇の新緑や、時おり広がる棚田の風景に見惚れながらの峠越えで、いい気分のままずんずんと前進していった。道中には「あと100マイル」と書かれたお手製の看板があって、ランナーのメンタルを容赦なくへし折りにくる。今までの経験上、100kmオーバーになると体力よりも精神力の方が重要になってくると言えるだろう。
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湯村カンツリークラブをパスして次に向かうのは柤岡峠(けびおかとうげ)だ。3年前に和田岬から浜坂を目指したときは、最後の最後でこの峠にぶち当たり、本気で泣きそうにながら峠越えした記憶がある。ちょっとしたハイキング気分を味わえるような林道は夜になると真っ暗で、どこから獣が飛び出してきてもおかしくないような雰囲気がある。今回は昼間なのでそのような心配もなくクリアした。登りは基本走らずに、ストックを使用して終始パワーウォークに徹する。獲得標高が2000m近くあるカトブンのコースでは、後半に足を残しておくためにも、登りは極力省エネ運転で行くのがポイントだ。さらにもう一つ大事なのは下りで飛ばさないこと。丁寧に一歩一歩、足を置くようなイメージで足にかかる衝撃を減らしていく。
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柤岡峠を越えて村岡地区にやって来た。自分は出場したことはないが、村岡ダブルフルウルトラマラソンでお馴染みの地域である。商店街を通り抜けてしばらく走ると、またもや次の峠が待ち受けている。笠波峠という風情のある名前が印象深い。峠にさしかかる頃には西日がジリジリと肌を焦がし、暑さによる疲労感が少し気になってきた。この時点で時刻は17時前。7kmほど先にある関宮ループ橋の下をくぐる道が暗くて怖かった記憶があり、日没前にそこを通過したい算段でいたが、このペースのまま進めば難なく通過できそうだった。
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道の駅ハチ北の手前には全但バスの停留所がある。去年出場したKAMI100で利用したことがあり懐かしくなった。
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但馬トンネルの狭い歩道を抜けると、ようやく関宮ループ橋下の道に出た。このループ橋は下から眺めても面白い構造をしている。
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この田園風景はローソン養父万久里店のあたりから撮影したもの。但馬の田園風景は美しいが、夕暮れ時になると郷愁を漂わせ、一人きりで歩いているとそれこそ神隠しにでも遭うんじゃないかというような不安な気持ちを抱かせる。走りながら移ろう風景に心情を重ねるジャーニーランは、マラソンやトレイルランでは味わえない魅力の一つだろう。
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いよいよ日没の時間がやってきて周囲が暗くなり始めた。視界が無くなると、脳に入ってくる情報は限定され、自分の身体や精神状態のほうに意識が向く。自分との対話をしながら、淡々と歩を進めるナイトパートが案外好きだったりする。建屋地区は街灯がほとんどない。頭上に広がる星空は綺麗で、時おりヘッドライトを消しては天を仰ぐ。
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75キロ地点の齋神社ではコース内で唯一の公式エイドがある。ローソン養父万久里店から次のコンビニまでは約45キロほど離れており、その間は補給地点が無いため、その間にエイドがあるのは非常にありがたい。ここで3位を走っていたランナーさんと合流し、エイドからは自分が前を走るかたちとなった。
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コースの半分にあたる生野駅に到着する頃には足の疲労が隠せなくなり、少しペースダウンしたいところだったが、生野峠を越えてからは緩やかな下り基調の道になり、自然と走るペースも速くなる。このペースで行けば目標としていた30時間切りは達成できそうだったし、何より3位という好位置に付けていたこともあり、さらに順位を上げたいという欲求が出てき始めた。
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100キロ時点での経過時間は13時間5分。今もなお平坦であればキロ7分前後のペースを維持できている。甘池駅を2時17分に通過。眠気による大幅かペースダウンが怖かったので、自販機で缶コーヒーを買って、積極的にカフェインを摂取する。カフェインは眠気対策のほか、疲労感も抑えられるため、オーバーナイトのトレイルやウルトラレースでは欠かせない。
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鶉野飛行場がある付近で日の出を迎えた。流石にこの辺りでは眠気が襲ってきて、とぼとぼと歩いていた。生野峠から割と飛ばして走っていたが、2位のランナーさんは一向に見えず、追いつく気配もない。このときばかりは眠気も相まって精神的にきつかった。加えてレース前から心配していた足底筋膜炎が悪化しているように思われる。右足を庇いながらとりあえず歩いていく。
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小野市に入ったあたりで右足が悲鳴をあげる。踵付近が痛くて歩くのもままならない。道端に座り込んで靴を脱ぎマッサージをしたり、ロキソニンを飲んだりしてみるが改善せず。アスファルトを歩くのが辛いので、加古川河川敷の芝生の上を歩く。f:id:massto0421:20220830193640j:image

最後から2つ目のチェックポイントにあたるローソン小野池尻店にてクーリッシュを購入し、アイシングをした。小一時間ほど休憩してると後続の4,5位のランナーさんがやって来た。大丈夫か、まだまだ時間は一杯あるから、と励ましの声を貰い、ローソンを出発するものの、まともに歩けない状態は変わらずだった。和田岬まであと40キロほど。時間はまだ丸一日残っていて、このまま足を引きずってでも歩いていれば間に合いそうな気がしたが、それに耐えられる精神力は残っていなかった。こうして2022年の兵庫縦断の旅は幕を閉じた。

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