茄子がままに

週末の山遊び、街遊び、自転車遊びのこと。ホームマウンテンは六甲山です。

栂海新道から白馬岳①(2022/08/13,14)

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2021年の段階で計画していた親不知ー上高地北アルプス縦走は、5月のカトブンで酷使した足の怪我により不可能となっていた。今の足の状態や体力を考慮し、短縮版として親不知から爺ヶ岳あたりまで縦走できればとも考えていたが、どうにも山行計画日の天気が良くないので、白馬岳までを目標に計画を立て直した。距離は60kmほどであり、2日目午後から天気が悪くなる予報から、オーバーナイトの通しで行くことに決めた。

通しで歩くと決めたら、装備も見直す必要が出てくる。普段のアルプス縦走とは異なり、テントで過ごす時間が無いので、ビバーク装備は最低限(クロスオーバードーム、エスケープヴィヴィ)にとどめておいた。これによりその他装備+水2Lで6.5kgほどの重量に抑えられた。これまでのアルプス山行では最軽量である。軽量化によって、例えば緊急時(行動不能となる怪我など)に満足した対応が取れないなどのリスクを負うことにもなるが、軽量化にともなう山行のスピード化により、そもそも緊急性の高い場面に遭遇するリスクを減らせるという考え方もある。つまりは山行計画を立てる段階でどれだけ具体性を持って山行のイメージが出来るかが非常に重要であり、計画に最適な装備を選択することが一番のリスクヘッジになるわけである。

8月12日、夜行バスで富山に向かう。先々週は剱岳、先週はTJAR開会式ということで、3週連続の富山入りとなった。深夜に富山駅に着き、どこか野宿できそうなところを探す。富山駅の北側に、芝生の茂っている公園があったので、そこにタイベックのシートを広げて眠った。

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翌日4時ごろに目が覚め、近くのコンビニで朝食のパンを買う。始発を待っていると、パラパラと小雨が降り出した。天気予報では今日の午前中いっぱいは雨が降るそうだ。親不知から白馬方面へと続く栂海新道は、終始、尾根づたいを歩く道なので吹き曝しにならないかが心配である。

あいの風とやま鉄道線”の車窓からは、前回は深夜で見えなかった日本海が見られた。宮本輝の小説「田園発港行き自転車」の舞台となった滑川漁港と田園のあいだを電車は走っていく。田園の向こうには白馬岳を有する後立山連峰の山塊がそびえていた。

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7時ごろ親不知駅に到着。ここから栂海新道登山口まで約5kmの道を小走りで移動する。雨がぱらついているがレインウェアを着るほどではない。親不知海岸の絶壁はなかなかの迫力で、歩いたことはないが、まるで黒部の水平歩道のように崖をくり抜いて道が作られている。
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7:40ごろ栂海新道登山口に到着。せっかくなので日本海をタッチしてから開始したい。海岸へと続く階段を降りていくと、途中にレンガ造りのトンネルがあった。これは旧北陸本線の跡であり土木遺産に認定されているらしい。また階段を降りていくと海が見えてきた。
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目の前には鈍色の空と日本海が広がる。あいにくの天気ではあるが、海抜0メートルからアルプスを目指すという行為はやはりロマンに溢れている。7:50スタート。

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恥ずかしい話だが正直に告白すると、スタートして間もなくロストした。下の写真、階段を登って左へ向かうべきところ、右側に踏み跡らしき痕跡があり間違えて進んでしまった。なんて歩きにくい道なんだろうと苦戦しながら進むこと5分ほど、流石に様子がおかしいので地図を見たら真逆に進んでいた。先が思いやられる。

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少し高度を上げてみると日本海を眼下に見下ろす。須磨浦から旗振山を登っているような錯覚になる。この辺りで急に雨足が強くなり、レインウェアを着込んだ。スマホにはまだ電波が入っていたので雨雲レーダーを確認すると、赤色の雨雲が接近していた。一時的なものなので、雷鳴が聞こえない限りは特に気にせず進み続ける。もともと今回の山行は天気に恵まれないだろうと覚悟していたので、レインウェアは2着持ってきていた。ここでどれだけ雨に降られても、予備のレインウェアがあるという安心感はとても心強かった。
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一つ目のピーク黒岩山の写真を撮り忘れ、二つ目のピーク入道山は8:47に到着。次のピーク尻高山は9:28に到着。雨が降ったおかげで涼しく、CT0.6ほどのいいペースで標高を上げていく。一本道のシングルトレイルはとても走りやすく、道に迷う心配もない。しかし周りの笹藪からいつクマが出てくるかという不安は常に付きまとうため、自然とペースが速くなってしまい気持ちを落ち着かせつつ登っていく。

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さらに1時間ほど登ると徐々に視界がひらけてきた。雨はいつの間にか上がっていた。日本海を出発してから3時間が経過していたが、すでに周りは山しか見えない。前方にはまわりの風景と同化している小屋が立っていた。標高1284メートルの白鳥山に建つ白鳥小屋である。小屋の裏には冬季用のハシゴが設置してあり屋上まで上がることができた。
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屋上から日本海を眺めると案外近く感じる。周りには山しかないので遠近感がどうにも狂うようである。今度はこれから向かう白馬方面を眺めてみる。どこまでも続く栂海新道の尾根道は終点が見えず軽い絶望感を味わったが、同時に腹をくくるきっかけにもなった。とにかく歩き続けるしかないのである。
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標高1241メートル下駒ヶ岳、標高1206メートル菊石山。アップダウンの繰り返しでいっこうに標高が得られずいらいらしてくる。加えて雲の間から太陽が顔をのぞかせ、ジリジリと気温が高くなっていく。
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13:55 栂海山荘に着くころには暑さと連続する登りで少々バテ気味だった。少し長めの休憩をとる。栂海山荘は無人小屋で食料の補給はできないので要注意である。面白いのはここのトイレ。現代社会ではなかなか体験できないエキセントリックな野糞方式。訪れた方はぜひお試しください。
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