生産至上主義に跳飛ばされて怪我をした、その後養生に、同期8人で但馬の城崎温泉へ出掛けた。踵の痛みが足底筋膜炎になるようであれば致命傷になりかねないが、そんな事はあるまいと医者に云われた。二三年で出なければ後は心配いらない、とにかく要心は肝心だからといわれて、それで来た。三週間以上ー出来れば五週間位居たいものだと考えて来た。しかし我々に用意された時間はたったの二日だけだった。
頭は未だ何だか明瞭しない。現実逃避が烈しくなった。然し気分は近年になく静まって、落ちついたいい気持がしていた。
オミクロン株が大流行する世情を考えると、あまり大きな声では言えないが、会社の同期と城崎温泉へ出かけた。道中、出石でそば打ち体験をしたり、玄武洞へ立ち寄ったり、とても楽しい旅行だった。帰る間際おみやげを物色していて温泉街の書店にふらりと立ち寄ると、案の定、志賀直哉『小僧の神様/城崎にて』の新潮文庫が7,8冊並んでいた。品のかけらもないその光景を目の当たりにしながらも、やはり強烈な誘惑には逆らえず、書棚から一冊取り出し会計へ向かった。