茄子がままに

週末の山遊び、街遊び、自転車遊びのこと。ホームマウンテンは六甲山です。

10月初旬のパノラマ銀座②(2023/10/4,5)

大天荘のランプ喫茶を満喫したのちテントに戻った。テントは強風に煽られてバタバタとはためき、人が入っていないと今にも飛ばされてしまいそうである。シュラフに潜り込んで寝る準備をしたものの、テントのはためく音が煩くてとても安眠できるような状況ではなかった。また、私が使用しているクロスオーバードームfは、携行性の代わりに居住空間を犠牲にしているため大変狭い。今日のように強風が吹くと、はためいたテントの壁が身体や顔にあたり睡眠を妨害する一因となるのである。

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結局ほとんど寝付けないまま朝を迎えた。強風によってテントを撤収するのも一苦労である。前日、大天荘に掲示されていた荒天予報を見て燕山荘に引き返すか、計画どおり上高地まで歩き通すか悩んでいたが、とりあえず行けるところまで行ってみることにした。これからの行程で一番の難所となるのは常念岳だろう。パノラマ銀座のコース中でも独立して聳え立っているので、風の影響をもろに受けそうである。もし常念岳を超えるのが不可能な場合は一ノ沢に下山することにした。
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大天荘から常念小屋までの区間はパノラマ銀座コース中で最も気持ちのよい道だが、この日は風に煽られないように歩くのが精一杯で、景色を見る余裕もなかった。ひとまず常念小屋に到着したので休憩を挟みたかったが、止まってしまうと身体が冷えてきそうなので、そのままノンストップで常念岳の急登に挑んだ。
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前日、常念小屋に宿泊していたと思われる3人組のパーティが、私と同じように常念岳へアタックしていた。追い越すときに挨拶したが、爆風で相手の耳に届いていないと思われる。それは相手も同じで、何やら口元が動いていたが、聞き取ることはできなかった。お互いそれを察して苦悶の表情をしながら会釈をした。

山頂手前の偽ピークの辺りで風はさらに重みを増した。風が吹く方向に身体を預けながらジリジリと進む。そうしていると山頂の方向からソロの男性が歩いてきた。お互い声を張り上げて「お気をつけて!」と挨拶をしてすれ違う。常念岳上高地側の稜線はガレていて非常に歩きづらい道なので、この強風下でまともに歩けるか心配していたが、先行者がいたことに少しだけ安心した。
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なんとか常念岳に登頂。景色を楽しむ余裕もなければ、楽しめる景色もほとんど無い。唯一の救いは、山頂付近で二羽のライチョウに出会えたことだった。この過酷な環境で健気に生きている姿をみると、私も頑張らねばという気にさせられる。
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幸いにも上高地側の稜線の風は先ほどよりもマシだった。ここから蝶槍手前にある樹林帯までの区間さえ通過できれば、以降は危険箇所もないので計画を遂行できる見通しが立つ。風に煽られて足の着地を誤らないよう慎重に歩いた。
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無事、樹林帯に入り一息つくことができたものの、蝶槍から蝶ヶ岳までの稜線では再び風雨に曝されることになった。特に雨足が強くなり始めていて、身体の末端から体温が奪われていく実感があった。そのうち雨はみぞれに変わった。
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たまらず蝶ヶ岳ヒュッテに駆け込み、テント泊用の炊事場で体制を立て直すことにした。この先は稜線から離れて樹林帯の道を下りていくので、風による体温低下の心配は無さそうである。しかし雨が厄介なので、地肌を濡らさないようにシェル類を重ね着して支度を整えた。
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蝶ヶ岳ヒュッテから徳澤園までの尾根道はダラダラ長く退屈である。6月にパーティを組んで歩いたときはお喋りしながらの下山だったので時間が経つのも早かった。今日は一人。雨がしたたる人気のない森のなかを、淡々と早足で歩いていった。上高地の散策路には冷たい秋の風が吹いていて、重ね着をしていても少し肌寒く感じられた。

その日の夕方、帰りのバスの中で大天井岳に雪が降ったことを知る。一日遅ければ今ごろ大天荘のテント場で吹雪に凍えていたかもしれない。アルプスの華麗な風景には、常に厳しい自然環境が隣り合わせであることを再度実感させられる秋の山行だった。
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