茄子がままに

週末の山遊び、街遊び、自転車遊びのこと。ホームマウンテンは六甲山です。

渋谷のライブハウスでくるりを聴いた話(2023/10/20)

ボーカルの岸田さんは眼鏡を掛けていたし、靴ひもを結び直したり、アンコールの曲を決めてなくて相談しているあいだちょっと待たされたり、そういう日常と地続きの光景が含まれているからこそ、音楽によって何度ももたらされるカタルシスを特別なものとして体験できた。もちろん楽曲が突き抜けて格好良いというのが大前提としてあるけれど、過剰にロックを体現するような言動を用いなくても、生きて来たままの佇まいがあれば剥き出しの表現になるバンドもあるということが解った。

又吉直樹『東京百景』より

渋谷の老舗ライブハウス「クラブクアトロ」の35周年イベントとして、カネコアヤノとくるりの対バンが行われた。どちらも好きなバンドだったが、くるりのライブは今回が初めてなので特に楽しみにしていた。くるりと出会ったのは中学生の頃で、以来約10年にわたり自身の生活の傍にくるりの曲があったのだと思うと感慨深いものがある。中高生の多感な時期をくるりの曲と共に過ごしてきたわけで、自分の人格を形成している要素に占める割合はかなり高いと思われる。

東京を訪れたときはもちろん「東京」を聴いて“東京の街に出てきました”とつぶやいたし、失恋にうなだれた春の夜は「The Veranda」の一節に救われたこともある。将来に向けてモチベーションを奮い立たせるときは決まって「HOW TO GO」を聴いた。とにかく日々のどんなシーンにおいてもくるりの曲が寄り添ってくれた。

 

カネコアヤノの演奏が終わってスタッフがバンドセットを準備している間、隣にいる友人そっちのけで瞑想するようにくるりの出番を静かに待った。30分ほど待つとやがてライブハウスの照明が落ち、くるりのメンバーが舞台に登場した。身体に染みついた「WORLD'S END SUPERNOVA」のイントロが流れ出し、自然と身体が揺れる。岸田さんの温かい声色と表情、ベースを弾く佐藤さんの一挙一動に見惚れながら、会場に満ちていく音楽の波に身体を預けた。

MCを挟まずぶっ通しで演奏するカネコアヤノとは対照的に、くるりは曲の合間にMCを挟む。岸田さんの京都弁が耳に心地よく、佐藤さんとの掛け合いも絶妙でずっと笑っていた。靴紐を結び直すことはなかったが、そばに置いてあったポカリを飲んで「ぬくっ!(ぬるいの意)」と突っ込んでいたのが印象的だった。かと思いきや「カネコアヤノさんかっこよかったね。負けてられへんね」と静かに熱を帯びた口調で喋ったりもする。時にぬるく時に熱い、そんな二面性を持った岸田さんの佇まいが、これまでの経歴を物語っているように感じた。

アンコールの手拍子によって再登場したくるりが最後に演奏した曲は「ロックンロール」だった。晴れわたる空の色、忘れない日々のこと。遠い日々の思い出は徐々に色褪せていくかもしれないが、くるりの曲を聞くたび彩りがよみがえり私を幸せな気持ちにさせてくれるに違いない。だから私はこの先も安心して旅に出られるのだ。

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